焔として往け en to shite yuke 2 |
じゃぁじゃぁと降り頻【しき】る滝雨の中、法師の黒と半妖の緋が縺【もつ】れる様にして小走りに駆けて行く。その追う先にこれまた頭 から水を被った少年が、濡れた半纏【はんてん】ももどかしそうに必死に前へと駆けていた。 ぴしっ、と細く割れるような音を立てて、灰色に曇【どん】よりと沈んだ天蓋が白く光る筋に罅【ひび】割れる。辺りが一瞬びかり、と明る く照らし出された。突如降り出した雨に、先まで道を埋め尽くしていた人々はわれ先にと軒先に犇【ひしめ】き始めている。皆怨めしそうに降り敷く雨粒を見上げ、わやわやと思い思いにざわめいていた。 さっきまで色とりどりに飾られていた筵が、あちらこちらで地面にべったりと張り付いている。今や障害物の全く無くなったその路のど 真ん中を、三人の鮮やかな影が勢い良く走り抜けていった。 おやまぁ、と何処かの老婆が呆れた様な声を挙げる。 走っていると、今や滝の様に降り落ちる雨が目にも鼻にも流れ込んでくる。走れば当然息が上がる訳で、息を吐けば水を吸い込んで 仕舞うこの状況は、犬夜叉だとて到底好ましからざる状態だ。豊かな白銀の髪がしとどに濡れて、走る側から肩に背中にずっしりと 重みを伝えてくる。野山を独りで闊歩していた頃もあったのだ。今ですらかごめに気を使って雨の中など歩かなくなったものの、そう簡 単に雨如きで音を上げる筈も無かったが、何しろこの雨は前代未聞だ。雨粒と言うより、寧ろ空全体が滝のような水を吐き出している。 傍らの法師はと見遣ってみれば、矢張りこのとんでもない豪雨に多少なりとも戸惑いを隠せない様だ。何時もふわりと空気を孕んでい る彼の袈裟は、今では見る影もなく身体に絡み付く枷でしかない。 (俺だって随分と難儀する雨だってぇのに…あの坊主) いい年をした男二人が閉口する少し前で、正太郎だけがこの雨の中二の足を踏むこともなく、只管【ひたすら】に矢の様な速さで駆け て行く。それだけ何か彼を駆り立てるものがあるのだろう。さっき自分がきつい言葉を吐いた時、赤い顔で俯いていた少年からすれば 随分な変わり様子だ。部屋に駆け込んできた揃浴衣【そろい】の少年の一言を聞いた瞬間、正太郎は血相を変えて雨の中へと飛び 出して行き、制止の声も聞かず、ああしてずっと走り続けている。 『大車に雷神が落ちそうだっ』…確かあの若い少年はそう言った。彼は正太郎よりも二つ、三つ歳を重ねた位の齢であったろうか。 「おい、坊主…」 そう犬夜叉が口を開き掛けたその時、前の曲がり角をくいと曲がろうとした正太郎が突然ぴたりと足を止めた。 「…ったく、随分と走らせやがって…」そう小さく悪態を吐【つ】いた犬夜叉もまた、曲がりの先の光景を目にして思わずその場に縫い 留められる。 「酷えな…」横でまた立ち尽くす弥勒が思わず素になった吐いた言葉に、犬夜叉も無言で同意した。 高さ何間【けん】程あったろうか。家々の屋根をも遥かに越えて空高く、祭りの大車が聳【そび】え立っている。屋根ほどまでの高さは ある四つの巨大な車輪の上に、生絹の鮮やかな絨毯に覆われた神輿が据わる。神輿の屋根には更にもう一段、二段、中小の神輿 が重ね載っていた。その最も小さい神輿、わずか人独り乗れば一杯であろう輿の上に、鋭い剣の切っ先を象【かたど】った瓦飾りが聳 【そび】える様に高く高く、天を突き刺してそそり立つ――けれどもうそれは大車の在りし姿。 びしゃり、とまた一際白く空が閃光【ひか】る。息つく間も置かずして轟かせる様な雷鳴が空気を揺るがせ、天蓋に走る稲光がばしっ と神輿脇に繋がった。今は雨風にじっとりと濡らされてしまっていた絨毯が、今度は落ちた雷に見る影も無くじゅっと焦げ剥がされる。 大神輿の四隅に互いに異なる色で提げられた白、朱、蒼、翠の房飾りも、今では白朱の二つを残すのみだ。 それでも未だ崩れることなく、ずんと立つ大車を眺め遣って、犬夜叉ははっと目を疑う。先まで剣飾りの一つだと思って居た小神輿 【こみこし】の瓦が、今の雷鳴に照らし出されて、むく、と身動【みじろ】ぎする様に動いたのだ。 「信介……!」 それを見た瞬間、為す術無く大車を取り囲むばかりの人々を掻き分けて、正太郎がずんずんと車輪に向かって突き進み始めた。雷 鳴に絡め取られては一たまりも無いと、皆近付けぬ中で唯一人、躊躇【ためら】うこともなく黒塗りの輪に取り付いてゆく。 思わず追い掛けようと身を乗り出した犬夜叉を、けれど弥勒の錫杖がじゃ、と突き出されて阻んだ。 「どけ、弥勒…!」 思わず歯を噛んで睨み付けた犬夜叉を、弥勒は短い、待て、の言葉で押し留める。弥勒は一歩前へ進み、先に正太郎を呼びに 来た少年を引っ張り出して問い質した。 「この雷鳴、突然過ぎてどうもおかしいとは思っていたが…。神輿だけが狙った様に灼かれているのをみると、どうやらこれは只の 雨ではなさそうですな?少年、何があったのかきっちりと説明して貰いましょう」やんわりとした口調とは裏腹に、びしりと突き通す 様な厳しい視線に射抜かれて、罪の無い少年は思わずびく、と身動【じろ】ぎする。 「しし、知らねぇや…ただ、長元の信介つぁんが神輿の上で舞剣を執ったら、急に御空の雷神様が暴れ出して…己らはただ、ただ それを始終見ていただけだよっ!」 もういいだろ、と掴まれた胸倉を身を捩【よじ】って引き剥がし、少年はさっと人並みに身を隠していった。弥勒はそれを追いもせず、 剥がされた手で空を掴んだまま傍らの犬夜叉を振り返った。 「厄介な奴を怒【いか】らせちまったらしいな、此処の阿呆な村人どもは」弥勒の視線に、犬夜叉が先手を打って口を開く。 「気付いているようですな、犬夜叉…。手強いですぞ、今度の相手は。何しろ」言い掛けてふっと眉を曇らせ、弥勒はもう一度、 更に灼かれてゆく大車を見遣った。今度の雷光で、残された白い房が真っ黒に変じて堕ちて行く。 「解ってる」犬夜叉が金眸を雷光にぎら、と光らせて答えた。「こいつの正体は……鴻の大明神」 舞童は神様の児……其れを勝手な人為ですり替えてしまおうとしたのなら、結果は必定。これは、正に……「祟【たた】り」。先か らの激しい雨は、其のまま即ち神の激しい怒りを意味しているのだ。 ついこの間戦いを強いられた偽水神とは訳が違う。もし本当の神の怒りに触れでもしたら…幾ら強躯な妖怪だとて、どんなややこし い目に遭うやら解ったものではない。 「其れでも、助けますか、あの二人を」仏に身を捧げた一介の法師として、神仏に対する想いは人並みならぬ。偶然とは言え出 会って仕舞ったからには避けられぬ目の前の状況…其れが弥勒に迫って胸倉を揺すっていた。 「お前ぇの出した答えと同じだろ」 何時に無く真剣な法師の言に、犬夜叉は事もなげに答える。弥勒は深く刻んでいた眉間の皺を一瞬さっと消すと、法師の 顔から若者の顔になって、に、と不敵な笑みを返して寄越した。 そう、それが答え。 「ここで突っ立ってる阿呆どもを…」犬夜叉が村人に目を走らせる。 「あい解った、安全な処まで誘導しておきましょう」笑みを唇に残したまま、濡れそぼった法師はしっかりと頷いた。 緋が真上に飛び上がり、交差するように黒が横へと飛び退【すさ】る。 「皆、ここは危険です、疾く、疾く、こちらへ!」 じゃんと鳴らした錫杖が、雨を弾いて細かな水滴を散らす。その通った声に、男達 はがや、と一瞬ざわめいて、我に返った様に後退し始めた。じり、じりと後退【あとずさ】る速度も、段々と速度を増して皆わぁっとば かりに駆け出し始めた。揃浴衣【そろい】の紺と白の波が、ざあ…と蜘蛛の子を散らすように散って行く…しかし、その時。 「見ろ、半の妖が大車に手を掛けるぞっ。」 若い男の声が、雨音を劈【つんざ】く様に一際大きく挙がる。 見れば村人達を一息に飛び越えた緋色の衣の犬夜叉が、今正に、大車に其の手を掛けて登り始めようとする所だった。その直ぐ 脇を新たに落ち来る落雷がびり、と翳【かす】めて、緋の水干の袖がじゅっと焦臭く灼け爛【ただ】れた。 男達の動きがぴたり、と止まる。 「何をしている、疾く!それともこのまま此処で天に召されてしまうおつもりか!」 けれどもどかしげな弥勒の声に、男達は答えるどこ ろか再び雷の集中する処へと戻り出す。何を、と咎める弥勒の横を、擦り抜けざまの男の声が掠って行った。 「半の妖…、妖かしに触れさせてはいかん!」 皆、先まで近寄りすらしなかった大車に、わらわらと群【むらが】る様に駆け集まり、口々に何やら叫びながら今しも手を付かんとし ていた犬夜叉をむんず、とばかりに引き摺り下ろした。只管【ひたすら】に遥か上をちらつく正太郎の影に目を据えていた犬夜叉は、 いきなり思いもよらぬ力に衣を絡め取られて、勢い良く後ろに引き倒される。 「…っにしやがるッ!」ば、と群る男どもを蹴散らして、犬夜叉が跳ね起きた。けれど怯むことなく衣を引き下ろそうとする男達に、下 手に傷付ける事の出来ない犬夜叉は閉口する。 一番先頭に立って犬夜叉に掴み掛かっていた壮年の男が、必死に彼の行く手を阻まんと叫ぶ。 「妖怪が、妖かしの血を受け継いだ者が、我らの神物に指一本触れる事、決して許さぬ!」 その言葉に一瞬犬夜叉の顔が翳り、動きが緩んだ。間断なく降り注ぐ落雷の猛襲が、仲間を蹴散らして行くと言うのに、男達は一 歩も退かず、穢れた妖かしを取り去らんと踏ん張り続ける。 「半の妖、お前にだけは!」 「触れるな、我らの神物に、壊してくれるな!」 蔑【さげす】むでも、なく。 賤【いや】しむでも、なく。 只己達の築き上げた物が穢されるという、恐怖。 己を突き刺す無数の視線に、思わず犬夜叉は殴り掛かる拳を握り込んだまま、じとりと身体に沁み込む冷たい汗を感じていた。 (まずいな…) 只でさえ今の犬夜叉は心が敏感になっているというのに。忌々しい状況に、弥勒はちっと鋭く舌を打つ。犬夜叉は、蔑みにも、 賤しみにも、反発する鼻っ柱の強い性格だ。取り巻く彼らの視線が蔑みに満ちていたのなら、力尽くでも蹴散らしてしまえるだ ろうけれど………今彼を引き留めて居る視線は、違う。 只純粋に、己達の築き上げた神物を穢されたくなくて…妖かしは神の領域を穢すという古くからの誤った常識を彼らは勿論信じ ているから、だから今犬夜叉を引き止めている。 この村には、珍しく妖かしだからといって直ぐ直ぐ蔑みの目を向ける気風が無かった。それは、一行が通る道筋が無言でさあっ と開けられたりしなかった事から、一行皆が思っていた事。そう、普段なら蔑みはしない、普段なら。 けれど今は違う。人の手で、己の神の為に心して作り上げてきた旧き良き神との交わりの伝【つて】。永く伝えられてきた神事を、 例えどんな事情が有るにしろ妖かしに触れさせる訳には行かない。そんな男たちの気持ちがひしひしと伝わるからこそ、犬夜 叉は今、普段あり得ないほどに動揺しているのだ。 人と人の絆。 入り込めない、妖かしとしての一線。 決して人の世界に馴染む事など許されない、入り込めはしない。 そう幼い頃に感じたであろう犬夜叉のトラウマを、この男達の視線は蘇らせるに充分過ぎるではないか。 (畜生……!) 振り払ってしまえばいい、右の拳を一振りするだけでい…さすればこの様な禍々しい思い出に心を揺さぶられる事などないと いうのに。けれど、脳髄にぺったりと貼り付いた冷たい記憶が、犬夜叉の思考を、四肢を、鎖で絡め取った様に拘束する。 (あの時俺は――只、通り過ぎただけだった) 村に近付いた時、犬夜叉はその華やいだ空気に、何かあると直感的に感じていた。幼年を漸【ようや】く脱し切ったか切らぬかぐ らいの頃だ。その頃までにはもう随分と自分の生活に慣れていて、幼い頃のともすれば夜泣き出してしまいそうになる温かい記憶を、 もうそう幾度も思い出さずにやり過ごす事が出来る様になっていた。無意識の内に、村里に近寄らなくなってゆく。 それは人に襲われるだろうと言う確かな予測からではなく、寧ろ成長した彼に敵【かな】う者等いる訳もなくて、只、昔の思い出を 封印しきってしまう為だけに身に付いた己への枷だった。…ともすれば思い出してしまう。声を上げる幼子をあやす優しい母。その 姿を見る度に、その声を聞く度に。どうしようもなく縋ってくる温かい記憶は、必ず去った後に凍える想いしか残しはしない。 (祭り、か…) 遠くから清んだ鉦鼓の音が聞こえて来る。 その余りに儚げな清浄さに、けれど彼は心を惑わされてしまったのだろうか。 近寄るべきでは無いとは、解っていた。幾らその喧騒が、人の声が、楽しげに活気付いて華やかであったとしても……結局自分 が受け入れられる筈はなく、己の孤独を骨の髄まで思い知らされるだけに終ってしまうのだと、彼はよくよく解っていた筈なのだ。 けれどその賑やかな彩りは、人々の一体感は、興奮は、余りに人飢えた心に甘美過ぎた。 こんな祭りの夜であったならば、もしかしたら。そんな想いを、彼はきっと自覚していなかったに違いない。けれどその無意識な哀し い期待が、知らず知らず彼を村の直ぐ近くへと導いてゆく。 思ったとおり、その村の祭りは此れまでに無く盛大なものだった。夜と昼が交替する刻限、薄い闇が辺りを呑み込んでゆく中で、薄い 興奮を纏【まと】った人の波がどんどんと増す。 大太鼓が配置され、ねじ鉢巻を締めた男達が群【むらが】った。皿まわしや衛獅子踊【いじしおど】り、一能一術の者達がそれでも 祭りの日は特別に人群れを呼ぶ。犬夜叉と同じ年頃の少年が、厳【いか】めしい獅子の面を被り、太鼓音に合わせて飛び跳ねてい る。彼が走る度に、腰を屈める度に、面から続く濃緑の布が鮮やかに翻【ひるがえ】り、獅子の白髪がばさり、ばさり、と大袈裟な音を 立てて観衆の興奮を煽【あお】っていた。突き出た少年の細い脚が、しなやかに土埃舞う地を蹴り上げ、そして捉える。行燈に照ら されたその影が、乾いた地面を舞台におどける様なしなやかさで伸びていた。 がくっ、がくっ、と顎音を立てて、獅子が鮮赫の口蓋を開く。 真白に並んだ歯が人々を威嚇する。 黄ばんだ白髪が振り乱される。 揺れる、撓【しなる】る、滑る、獅子神の躯体。 蛇の様な影が黒々とうねって、凝視すれば吸い込まれん程に…。 もう少し近付いたって、構わないのではないだろうか。人々は皆獅子舞に夢中になって此方【こちら】に気付いてはいない。 もう少し近付いて、あの獅子舞の少年を……もう少し近くで。 その時彼に、彼の心に、もう少し間近で獅子舞を眺めてみたいという思いが擡【もた】げたからといって、一体誰が彼を責められよう。 彼はまだ十分に、十分過ぎるほどに、幼い幼い、子供だったのだ――。 けれど一瞬の後、晴れやかな歓声は暗転する事になる。 逃げ惑う子供。背を打つ罵声。追ってくる足音。 彼が一体、何をしたというのか。幼い胸の内に、物珍しさに、疼く好奇心が顔を出しただけだ。もう少し間近で、それを眺めてみたいと 思った、ただそれだけなのに。 無情に肩を打ち砕いた石粒が、頬を翳【かす】めて落ちてゆく。 走って逃げ惑う彼の脳裏に、提灯の光の中描かれた放物線が妙にくっきりと灼き付けられた。 少年は心で問い掛ける。『何が、いけなかったのか』と。卑しい生まれを持つ己は、ほんの子供らしい期待を胸に閃かせる事すら、許 されぬと言うのだろうか。あの子供達に紛れて、そっと見世物を眺める事すら、許され得ぬと。 鉦鼓の音が耳につく。 胸が喰い破られる。 目裏【まなうら】が灼ける。 化生の血が流れる彼にだって、心は有るというのに。笑いたい時も有るというのに。 どうして。 記憶の中で幼い犬夜叉が問い掛けている。押さえ込んだ筈の、幼かりし叫びが、耳に付いて離れない。鉦鼓の音が彼の脳髄で反響 し、幾重にも折り重なって思考を叩き割った。溢れ出すように、封印された思い出が目裏【まなうら】を流れて、その鮮やかな色彩の氾 濫にもう犬夜叉は抵抗すら出来なくなっていた。記憶の隙間からちらちらと垣間見える男達の掌が、段々と遠退いてもう記憶の一欠け ら程に掠【かす】れてしか見えない。 (俺が、何をした?) 何を、した――其の問い掛けすらも、耳朶奥に遠く掠めただけで直ぐ飲み込まれて行く。身体はもう、どこにもない。 ちくしょう――! 『なーにやってるの、犬夜叉』 (え…?) 確かに、誰かに呼び掛けられた様な気がして、犬夜叉は記憶の大河の中で振り返る。光が眩しい。…君は、誰、と幼い犬夜叉が問い 掛けた。 『ねぇ、また珊瑚ちゃん達が喧嘩しちゃってるの』 瞬間、耳朶に貼り付いていた鉦鼓の音が、さぁっと潮引く様に遠ざかって行った。 朗らかな声。 目映い笑顔。 優しい…匂い。 光受けて輝くぬば玉の髪が、何か細やかな虹色を放って視界の中に揺れた。 ああ何だ、かごめ。 『ねぇ、犬夜叉』 少女の姿をした幻想が、ひらりと髪を翻【ひるがえ】して消えて行く。 ――待ってよ、ねえ!!! 記憶の中の少年が絶叫する。途端、目の前の大河は割れて、さぁっと押し寄せた現実感が犬夜叉の全身を貫いた。電光が走っ たかの様に、身体がびりっと痙攣する。身体はまだ此処に、在った。 (――囚われて堪るかよ、こんなモンに!) ざぁ…っと頻【しき】る雨音が遠く耳朶を刺激して、犬夜叉はかっと目を見開いた。しつこく纏【まと】わり付いていた記憶が、あっさり と脆く四散する。 まだ縋ろうとする男達が、ざっと視界に飛び込んで来た。自分に向けて繰り出される無数の手、手、手…。けれど、そんなものに 惑わされていちゃ、始まらねェんだ。 居場所は引き摺り出さずとも、ここにある。 俺にも……さっき出会った馬鹿坊主にも。 『気付けばいい、ただ、それだけなんだから』 もう一度だけ耳元で、さっきの少女が囁いた。 簡単な事じゃねえか。 揉みくちゃにされた衣を、身体を撓らせて振り解く。ああ、と叫ぶ男たちを蹴散らして、犬夜叉は高く高く宙にその身を躍らせた。 「神様だか何だか、知らねぇがなぁ…」 ぎろりと男達を睨め回して一喝する。 「退【ど】きな!こんな事くれェで壊れっちまう神事なら、いっそぶっ壊しちまったがすっきりして良いぜ!」 唖然とする男たちを尻目に、振り返りざまばっと地を蹴って飛び上がる。途端、先まで犬夜叉が立っていた地を、路傍の家から剥 がれ落ちた瓦雨が襲った。それを意に介す事無く、巨車輪に手を触れた犬夜叉は、突如弾くように掌を突き抜けた衝撃に思わず ぐっと咽喉を鳴らした。びりびり…びりびり…と、大車全体を細かな光筋が走り廻る。 (結界か…!) 快くない痺れの感覚に、犬夜叉はぎりと唇を噛んだ。それでも、流れに逆らうようにしてゆっくり上へと移動して行く。降りしだく雨が 土砂を巻き込んで彼の廻りに襲い掛かった。尋常ならぬ強さで衣に打ち付ける雨粒は、これぞ神のなせる所為【ゆえん】なのであろうか、普 段なら刃をも弾き返す不思議の衣を物ともせず、直接的な衝撃を犬夜叉の皮膚に与えて来た。 そこらの妖怪の者達の半端な攻撃よりずっと身を軋【きし】ませる、内から蝕む様な痺れの感覚。ちきしょう、と大声を挙げて自らを 鼓舞してみても、車輪上半ばまで身を引き上げた所で躯が暫しいうことを聞かなくなった。その間にも今や遅しと空を揺るがす雷鳴 が、びしりびしりと周囲の家を襲っては突き崩してゆく。ちらりと後ろを見遣ってみれば、弥勒が随分と先まで村人を駆り立てて行 っていた。 (そうか、あいつの結界も、コイツ相手じゃぁ歯が立たないって訳だ) 仏と神では自ずから成り立ちが違うもの…けれどあからさまに、法師の結界の格は神の其れより下に位置する。数多の妖怪を粉微塵 に吹き飛ばす程の力を持つ弥勒の結界も、今や張りだす側から掻き消えて全く役に立ちはしなかった。しゃんしゃんと行き先を示 してゆく錫杖の音が、注ぎ来る雨の中最早微かにしか聞き分けられなくなっている。 「兄【あに】さんっ!」 其の声にば、と上向くと、一間ほど上にある大神輿の屋根上から正太郎の顔が覗くのが見て取れた。煤【すす】に塗【まみ】れた 頬は黒く汚れて傷が付き、赤筋入りだった印半纏【しるしばんてん】も溶け出た塗料で元の模様が判別出来ない。ただその双眸 だけが勢い良く輝いて、まだまだ衰えぬ彼の決意を物語っていた。 「坊主…っ、動くんじゃねえ!今動いてみろ瞬刻【しゅんこく】後には真っ黒焦げだ」 はっと動きを取り戻して、軋む両足をばねの様に撓【しな】り込ませる。反動を付けて飛び上がった弾みに、足許にあった車の郭が ぎしっと溜息の様な悲鳴を挙げた。 空を舞う犬夜叉は、ここぞと貫かんとしてくる雷光を身を捩【よじ】って間髪で避ける。平衡を失って一瞬ぐらりと躯が傾【かし】いだ が、ぐいと気合で右手を伸ばし触れた神輿屋根を思い切り手前に引き寄せた。視界が揺れて、寸刻後に足裏【あうら】は神 輿の屋根瓦を捉える。ほう、と息を僅かに緩め、犬夜叉は傍らで両手足を踏ん張ったままの正太郎を片手で支えた。 「兄【あに】さん」まだ腰を低く屋根にしがみ付いた恰好で、正太郎が眼【まなこ】だけを犬夜叉に向ける。「こっから上はもっと危な いんだよ。己らに任せて良いから、退いていて呉れ」 その強がりな発言に、一瞬気を抜かれて呆けた犬夜叉は、すぐ様渋面になってごんと正太郎の頭を沈めた。 「馬鹿言ってんじゃねぇ、くたばりそうなのはお前の方じゃねーか。お前こそ大人しく此処で退いていろ」 痛ってえ、とわずか涕目になりながら、正太郎は上目遣いにもう一度犬夜叉を眺め上げる。彼とて既に顔は煤塗【すすまみ】れ、雨に 濡れそぼった白銀の髪が重たげにじっとりと首筋を覆っていた。けれど、と正太郎は双の目を少し細く側【そば】める。降り掛かる雨 粒を受けて尚撓【しな】やかな強躯と、爛々【らんらん】と光を増してゆく金色の双眸。灼けても焦げても、尚嘲【あざける】る様に赫 い犬夜叉の水干が、どよりと重い鈍色【にびいろ】の空気を鮮やかな色に染め抜いていた。 (頼もしいな) ふ、と数刻前の犬夜叉の姿を思い出す。若くて綺麗な異国風の女の子に咎められ、反発も出来ずにそっぽを向いた少し情けない 体【てい】の意地っ張りな少年。でも彼が傍らの女の子を見遣る瞳は優しくて…守ってあげたいという強い思いを胸に宿していると、 無言のうちにも幼い正太郎の胸に伝えてきた。 「あい解ったよ、犬の兄【あに】さん」正太郎はぐいと顔を持ち上げて犬夜叉を強く見返す。「己らは引込んでいるから…。信介兄 【にい】は悪い奴じゃ無いんだ、先のように殴らないでやってお呉れよ」 「うるせーガキだなお前え」と小さく文句を吐いた犬夜叉は、その言葉とは裏腹ににっと不敵に笑ってみせる。其の金色の眼【ま なこ】には、『気に入ったぜ、坊主』とはっきり書かれていた。 びりり、と後方に気の震動を感じて、犬夜叉はさっと身を屈【かが】める。正太郎の頭をぐっと押し下げながら、自分は高く舞い上が って掠め行く雷光から身を避けた。最早雷は、正体を明かすごとく自在に、生き物の様に犬夜叉の動きを追い掛けて来る。中神輿 【なかみこし】まで後一歩と言うところで、手に掛けた瓦ががらりと脆く崩れ落ちた。思わずちぃっと舌を鳴らし、辛うじて躯を神輿の 中に転がり込ませる。どん、と硬質な板床に腰を強【したた】か打ち付けて、一瞬ぐ、と息が詰まった。けれど、じゃぁじゃぁと降りしだ く激雨の音にじゃん、じゃん、と規則正しい錫杖の音を捉えて、犬夜叉は歯を食いしばって身を起こす。思わず手を掛けた中神輿 の手摺木【てすりぎ】が、しつこくばりばりと結界の摩擦音をあげた。 「んな…っ」 目に飛び込んでくる雨粒に、一瞬視界を奪われ掛けながら犬夜叉は驚いて息を呑む。弥勒の後から普段は差さぬような古風な塗 り傘を掲げた女が二人、ぱしゃ、ぱしゃと小さな水飛沫をあげながらこちらに向かっているではないか。 (か、かごめ…っっ) 危ないとかそう云う言葉の前に、かごめのしと濡れた浴衣姿に一瞬視線を奪われて、犬夜叉はぶんぶんと頭を振った。何てこった、 こんな時に! 「弥勒〜〜〜〜ッ、何でそいつらを此処に連れて来るんだよ、俺ぁ坊主二人で手一杯なんだっ!」 今ここでかごめ達を雷光が襲っても、結界に動きを緩められた自分にはどうする事も出来ない。ぎろりと遠くの弥勒を睨み付け、 犬夜叉はぎゅっと胸を締め付けられる思いに、苛々と足を踏み鳴らした。 「仕方無いでしょう…」 「あたしが勝手に付いて来たのよっ、莫迦ッ!」困った様に言葉を返す弥勒を遮って、かごめは頬を紅潮させながら、雨に消されま いと必死に叫ぶ。「そんな危ない所まで…心配したに決ってるでしょっ」 叫びながら、目の前の憂うべき状況に、かごめは思わず頭が高揚して眦に熱いものを滲ませる。 ああ、ああ、また泣いてやがる、とぶつぶつ呟く犬夜叉を、突然横殴りの閃光が張り倒した。かごめは思わず蒼褪めて、ひっと小さ く息を呑む。立ち竦んだ躯を、一回り背の高い珊瑚がさっと庇う様に腕で支えた。 「馬鹿、犬夜叉、かごめちゃんにはあたし達が付いているだろ!余計な念を使ってないで、とっととそいつにカタ付けて来ちまいな ッ!」 支柱に掴まって如何にか墜落を免れた犬夜叉に、珊瑚がばしりと檄を飛ばす。ちきしょう、都合の良い事ばかり言いやがって、とも う一度ぶつりと呟きながら、犬夜叉はそれでも少し安堵してずきずき痛むこめかみをぐぃと一押しした。いい加減これ以上ぐずぐず してたんじゃ、躯が持ちゃぁしねえ。 さっと手摺木に身を躍らせ、犬夜叉はまだ暫く上にある小神輿【こみこし】を忌々しげにぎんと見上げた。上に行けば行く程結界は 強まって、どうやら剣を象った瓦飾りを中心に渦巻きの如く大車全体を取り巻いている様だ。 (あれに飲み込まれちゃあ、一溜りも無ぇな…) しかしおなじ所で何時までも往生している訳にもゆかず、犬夜叉は勢いを付けてがしっと足場を踏み切った。ばりばりと衣を灼く結 界の閃光が、犬夜叉の上昇を阻んで躯を下へと押し下げるが、負けてなるかと犬夜叉は身を撓らせて小神輿の載る屋根上へとどうにか体を引き摺り上げた。無数に裂かれた衣から、強い筈の皮膚に刻まれた赫い傷が数々覗く。沁み込む雨にじんじんと生傷 が疼いたが、犬夜叉はぎりりと歯を噛み締めて更に進もうと手を伸ばした。 と、先までばりばり音を立てていた結界の閃きが、突如勢いを緩めて激しい螺旋を僅かに拡げた。ふ、と体中に取り付いていた倦 怠感が取り除かれ、犬夜叉は何事かと身を滑らせ下を見る。 (弥勒…!) 錫杖を鋭く地面に突き立てて、弥勒は淡い桃色の光を身体中に滾【たぎ】らせている。その光は結界のそれを僅かに押し上げて、 激しさを押し解く様に半円状に弥勒の身体から立ち昇っていた。 (おいおい良いのかよお前え、こんな事して) 天罰下るぞ、天罰が、とぶつぶつ呟きながらも、犬夜叉の瞳が揺らりと楽しげに光る。俺達も良い御身分だぜ…神様とやらに叛逆 した法師と半妖か、笑い話にもなりゃしない。 けれど、少しずつ神輿を取り巻く結界が勢いを取り戻すのを感じて、犬夜叉はさっと真剣な顔に戻った。矢張り、一介の法師の結 界では押し留め切れないか…せめて弥勒の法力【ちから】が続く間に決着を着けて仕舞わなければ勝機はあるまい。 一刻の猶予もならぬと小神輿の柱に爪を立て、がすりと柱木が剥がれ落ちる直前に身体を半転させる。緩んだ結界に、先までよ り身体が滑らかに動いて、犬夜叉はとうとう目的の場所まで登り詰めた。足裏【あうら】を弱められて尚激しい閃きが灼き、びりびりと 瓦を伝って大車を揺り動かす。妖かしが近寄った事に神域が拒絶反応を起こしたのだろうか、剣から紡ぎだされる閃光の螺旋が一 瞬でぎゅんと速度を増した。遥か下で弥勒がぐ、と呻【うめ】き声を挙げたのが空気を通じて伝わって来る。 犬夜叉は苛立ってばしりと足元の瓦を突き崩し、剥き出しになった屋根板に足裏を降ろした。ざらざらと毛羽立った木板が、沁み 込む雨で湿気【しけ】てゆき、瓦上で失い易い平衡感覚をどうにか身体に戻してくれた。眉間に垂れかかる長い髪を鬱陶しそうに ざんと掻き揚げて、犬夜叉は足許に震える紺と白の揃浴衣を冷たい目で見遣る。親にいわれてか自らかは解らないが、舞童を奪 おうとした事は事実だ。正太郎の泣き崩れる姿を思い出し、犬夜叉は目の前で震える信介に苦々しくちっと舌を鳴らした。 「おい腰抜け、がたがた震えてねェでとっとと腰を立てな!そんなへっぴりじゃあ、降ろしてやろうにも出来ねえだろ」 その声に、今始めて犬夜叉の存在に気付いたのだろう、信介ははっと涙に塗【まみ】れた顔を上げた。右手には、扱い損ねた 舞剣をそれでもしっかと握り締めている。 「ったく…そいつを放すんじゃねえぞ!」 言うなり信介の首根っこをがしりと掴み、結界の流れに乗る様にして身を躍らせる。螺旋が唸【うな】って、二人の身体は一 気に下まで落ちゆくかに思われた……だが、事はそうも簡単に運ばない。遂に力尽きた弥勒がばちぃんっと結界の外に弾き飛ば され、引っ張られていた螺旋が勢い良く撓【たわ】んだのだ。急速に落下していた二人の身体が、どんと衝き上がる衝撃にもんど り打って小神輿の中に叩き付けられた。ぐぅ、と咽喉を鳴らして犬夜叉の手の中の信介がぐったりとなる。犬夜叉も二人分の体重で 打ち付けられて、少なからず頭を痛みが襲っていた。 (畜生、この雨が鎮まらなけりゃあ降りたところで終らないじゃねえか…!どうやったら、どうやったら鴻の神は怒りを鎮める?)くらく らする頭の中を、誰へともない問い掛けが駆け巡る。そうだ、今ここで信介と正太郎を逃がしても鴻大明神が鎮まらなければ、この 村は壊滅するまで破壊され続けてしまうだろう。 頭を押さえながら身体を起こし、手摺木から身を乗り出して下方を見遣る。 「弥勒ーッ!」 珊瑚に助け起こされた弥勒が、ふっと双眸を上げて一瞬頷いたのが見て取れた。続いて何やら、脇の珊瑚に耳打ちしている。 「犬夜叉ぁっ、そいつの持ってる舞剣を正太郎に渡しな!そうすりゃ鴻の怒りも鎮まって、このの雨も止む筈だって、法師様が」 珊瑚が雨音に掻き消されまいと声を張り上げる。その声を耳を立てて一語一句捉えた犬夜叉は、よし、と低く呟いて信介の右手 から舞剣を【も】ぎ取ろうとした。途端、劈【つんざ】く様な光が走って、犬夜叉は身体ごと弾き返される。小神輿から吹き飛ばされ た犬夜叉は一瞬の判断で支柱に爪を立て、転がり落ちて仕舞う所と辛くも免れた。 (妖かしの俺には触らせねえってか…つくづく忌々しい野郎だぜ、神ってえのはよ) 渋面を更に顰めながらも、腕に力を込めて身体を元の位置まで引き戻す。先の光で正気を取り戻した信介が、一層がたがたと震え て半妖を見上げた。…ったく情けないったらねーな、と悪態を心中で吐きながら、犬夜叉は有無を言わせぬ口調で信介に言い放つ。 「何、ぐずたらしてやがる!俺はそいつに触【さわ】れねえ…、だったらお前が自分で正太郎に返すんだ」 けれど、「返す」という言葉にぎゅ、と唇を噛んだ信介は、嫌だ嫌だと舞剣を背後ろに隠そうとする。正太郎に「返す」…正にそれは、 従弟【いとこ】である本当の跡目息子に、自分の負けを宣言する様なものだ。それを幼い信介とて十二分に解っているのだろう、この 極限の状態に立たされて尚、彼のプライドが舞剣を握る手を固くさせる。 その様子を始終眺めた犬夜叉は、とうとう堪忍袋の緒をぶつりと切らせて、だんっと拳を床に叩き降ろした。 「てめぇ、この期に及んで未だ下らないモンに縋るつもりか!?」ざっと立ち上がって、ぎろりと信介を睨み下ろす。「俺だってこんな処 でくたばりたくねえからな…てめーがやらねえってんなら、それでも良いぜ。今すぐここから突き落としてやろうか!」 天蓋が白く、瞬くように光る…間を置かずして、轟く様な竜神の咆哮が上を、下を引っ掻き回すかの様に揺るがせる。何時斬り裂かれ たのだろうか、犬夜叉の頬に一筋鮮朱の線がつぅっと血滴を噴き出してゆく。怒りを顕わにした犬夜叉の双眸が、びかり、と雷光を受 けて閃いた。 びっ、と電気に打たれた様に、信介が跳ね上がる。無我夢中で手摺木を乗り越えた信介は、おい、と犬夜叉が止める声も聞かず 一気に瓦屋根の際まで這って行った。 「正太郎ーッ!」 掲げられた舞剣が、最後の雷光を受けてすらりと白銀に閃いた。そして次の瞬間には信介の手を離れ…弥勒の声に身を構えてい た正太郎は、その右の手でしっかりと自らに課された重たき命【めい】を受け止めたのだった。 残った雨を搾り出す様に、大きく一度雲が水を吐き出した。ざぁ…っと降り落ちてきた雨粒の塊に、軒に身を隠していた人々も、下で 身を助け合う若い法師と退治屋も、大車の上と下で想い合う半妖と娘も……一瞬の間、瞳を閉じた。 再び皆が目を開ける。 けれど最早、天蓋は今までの嵐が嘘の様に高く高く――とぉんと音が響く程に綺麗さっぱり拭われて、暫し茫然とする人々を 只物静かに見下ろしているだけ…。 西の山端から、柔らかな茜色が拡がってゆく。 |
<<1 へ | 3 へ>> |